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2008年 11月 01日
共産主義下のルーマニアにおける中絶を中心とした話。
背後にテーマがあるような感じの重くしっかりした雰囲気の映画なのだけれど、テーマは共産主義でも中絶でもないような印象を持った。 中絶するのは、ナオミ・ワット似の主人公ではない。 そういうことになってしまったのは、彼女の大学の寮のルームメイトである。 ルームメイトは、中絶をする本人であるにもかかわらず、或いはだからか、気が全くまわっておらず、事態をどんどん悪いほうへ持っていってしまう。 その子に代わって、そこを何とかしてしまった主人公の半日を追ったものである。 まさに「追った」という感じの撮影の仕方が印象的だった。 良い意味で雑で、そのシーンの登場人物全員が枠に入ったところで、カチっと固定してそれっきりにしてしまっているようだった。 旅行先やら何やらで集合写真を撮るのに、その辺の塀の上とかテレビの上などにカメラを置くような感じである。 完璧な構図じゃないけれど、一応全員が収まるから、というような大雑把な感じ。 しかし、そうすることにより、最初から最後までかなり切羽詰った状態にある主人公と、その周りで通常のペースで動いている人々が、一つの四角い世界の中を出入りすることになる。 最初は、主人公一人だけが、そのペースから微妙に外れているように見えるのだが、幾つもの枠が過ぎていくうちに、彼女もまた通常のペースで動いているように見えてくる。 実は別の誰か、ホテルのコンシェルジェ、ボーイフレンドの母親、或いは母親の友人、また或いは、今ふと彼女の横を通りすがった人もまた、ペースの外にいるのかもしれない、という風に見えてくる。 普通は見えない、実情を知ることもなく過ぎていく誰かの半日というのは、この世に無数に存在するわけで、主人公の半日は、そのうちの一つに過ぎないのだと思えてくる。 そして、その無数の半日は、全てが一つの枠の中に入っていて、寄せては引いていく波のようなものなのだろうと思えてくる。 この、寄せては引いていく波の感じは、映画のあちこちに細かく現れている。 とくに印象的なのは、主人公と中絶したルームメートで、彼女達自身が枠の中の波であると同時に、彼女達の中にも波が寄せては引いているのだ。 鈍臭いルームメートをなじる気持ちと心配する気持ち、全てがうまく行きかけたと思う安堵と振り出しに戻ったと思う暗澹、しっかり者の主人公に頼りきる萎えた心と彼女をかばう凛とした心。 そういう波が寄せては引き、引いてはまた寄せてくる。 ルーマニアにおける中絶という、映画の題材としてはありきたりでありながらも無視できない事実を波の一つとして表すことにより、劇的に見えて劇的でないもの、劇的には見えないが劇的であったり重要であったりするもの、世界はそのようなものの集まりであることをしみじみと感じさせる映画であった。 そして、観客として観ている自分自身の事柄もが波の一つとなって引いたり寄せたりを繰り返し、いつしか、主人公やルームメイトと心情を共有しているような気分にもなった。 そういう意味では、題材は中絶でなくても良かったであろうし、逆に中絶でも良かった、ということなのかもしれない。 テーマは結局何でもよかったように思う。 この心情の共有こそが、それがテーマだったのだろう。 4months 3weeks and 2days 公式サイト
by bp1219
| 2008-11-01 11:30
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