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2008年 07月 26日
先日、スキー場で有名なウィスラーとバンクーバーの真ん中あたりにあるガルバルディ湖(Garibaldi Lake)というのにハイキングに行った。
この湖は、バリア(The Barrier)と呼ばれる溶岩の塊がダムの働きをすることによって氷河の溶け水がたまったものである。 バリアは、プライス山(Mount Price)が9千年前に噴火した際、山の西側の噴火口から流れ出た溶岩が固まって出来た。 溶け出した溶岩が流れ込んだ谷間が当時氷河で覆われており、流れが氷河の壁に阻まれ冷やされ、そのままそこで固まったのである。 やがて大地の気温が上がる時代がやってきて、氷河の壁が解けてなくなったことにより、冷やされて固まっていた溶岩が断崖絶壁となって剥き出しになることになった。 解けた氷河は絶壁を優雅に流れ、その先に大きな水溜りを作った。 その大きな水溜りがガルバルディ湖で、むき出しの絶壁がバリアある。 ガルバルディ湖の静かな緑色の湖面に比べて、バリアの側面はゴツゴツとして騒がしい。 バリアはそれが火山層であるからなのか、或いは激しい雨のためなのか、理由ははっきりしないようだが、いずれにしても浸食が激しく、岩肌がえぐれたようになっている。 どれくらい激しいかというと、バリアに沿ったハイキングコースを歩いていると、数分に一回くらいの割合で、ゴロゴロという音とともに土煙りをあげながら岩が落ちてくるのを見られるくらいである。 その岩は人のこぶしほどの石が落ちてくるようにしか見えないが、「沿った」と言っても、コースとバリアの間にはかなりの距離があるから、あれは実際には、かなり巨大な岩が転げ落ちているのだと思う。 だから、あちこちでいつでも土煙が上がっている状態である。 その様子をぼんやりと眺めていると、いっしょにハイキングをしていた友人のうちの一人が、「岩肌がどうしてあんな風な形になるのだろう?」と言い出した。 土煙の奥の岩肌をよく見てみると、それは確かに、ゴツゴツしているだけではなく、人の手の指のように上向きに細い塔のような形になっているところがあるのが分かる。 アメリカのネバダ州にブライス渓谷国立公園(Bryce Canyon National Park)というのがあって、そこの山は、岩が鍾乳石を逆さにしたみたいに突き出ていることで有名だが、それをものすごくショボくしたみたいな感じである。 しばらく考え込んでいた彼は、「そこらで上がっている土煙がゆっくりと積もっていったのではないか?」という自説を述べた。 バリアの脇は谷間のようになっていて微妙な気圧の違いでもあるのか、土煙は広がって薄く消えていくというよりは、上に向かってまっすぐに上がり、どんどん細くなって消えていっている。 同じ場所で何度も落石があれば、長い年月をかけて、粉のような土が少しずつ積もっていくことも有り得なくはないのだろう。 私はその壮大な時間を思ってみた。 雄大な気持ちになった。 彼の自説が正解だといいなという思いから、家に帰ってインターネットで調べてみた。 しかし、はっきりした回答がない。 ないというより、そもそも、岩が人の指のように細長い塔の状態になっていることに注目している記事がないのである。 大方の記事は、前述した通りの理由から浸食が激しいということと、このまま浸食が続いて、ガルバルディ湖の水を堰き止めるモノがなくなった時の被害についてを述べているばかりである。(*1) バリアが溶岩の塊であることを考えると、溶岩層の硬い部分だけが残った結果と考えるのが妥当なのかもしれない。 つまらないけれど。(*2) それはそれとして、私は、このように、何か面白いモノを目の前にすると自説を立てる人が好きである。 科学者とか弁護士とか医者とかニュース・キャスターの言うことがいつも正しいとは限らないし、正しければそれで良いというものでもないだろう。 それよりは、間違っているかもしれないし、何の役にも立たないかもしれないが、自分であれこれと考えて、「こういうことなのかも!」という人の話を聞いているほうがずっと楽しい。 それに、そういう人は、他の人の考えも面白がって聞いてくれるだろうから、広々とした気持ちで私も自説を述べらることができる。 人の指のような岩肌を見て思ったような壮大な時間が流れ、雄大な気持ちになれるというものである。 (*1)1981年に大規模な浸食があり、ガルバルディ湖付近の村に住んでいた住民に避難命令が出された。 そして、それはそのまま移転命令になり、村ごと近隣の街へ移り住むことになった。 このまま浸食が進み、バリアが完全に崩れてしまった場合には、溢れ出る湖の水は、この辺りで最も大きな街であるスコミッシュ(Squamish)にまで及び、また、海峡を超えて西側に位置するバンクーバー島にまでその波のインパクトが伝わるだろうということである。↑ (*2)湖の近くに、ブラック・タスク(Black Tusk)という山の上にそびえた黒い尖った岩がある。 この岩の成り立ちは、まさに溶岩の硬い部分が浸食せずに残っているというものだ。 ブラック・タスクは百万年以上前に活動していた火山の名残りで、氷河期を経て新たに始まった火山活動により、17万年前に再び山が出来上がり、その後、長い年月をかけて山が古くなり侵食が進み、今現在残っているのは溶岩層の最も中心となる硬い部分だけだという風に書いてある記事があった。 しかし、あまりに古い話だから何なのか、全て「たぶん、そうだろう」という推測の域を出ていない話のようである。 そういう意味からすると、友人の自説も何年も後になって誰かが立証することがあるかもしれない、などと思う。↑
by bp1219
| 2008-07-26 00:10
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