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2008年 05月 17日
インドについて知りたいとか、これからインドに行くから参考にしたいとか、ではなく、もともとインドが好きだとかというような人だと、著者とふらふらと旅している気分になって楽しい本である。
文体のリズムがとても良い本だと思う。 そこには、著者の雰囲気が色濃く出ていて、彼女自身の持つものによって、それに引っ張られて読み進む感じだから、本としてなかなかのものだと思う。 著者は、とても聡明な人だと思う。 知識が豊富にある聡明さではなく、思考とか想像のほうでの聡明さだ。 その辺で知り合った人やらガイドやらに教えてもらった歴史や、それについて自分がどう思ったか、などということが時々書いてあるのだけれど、正直に言えば、その内容はペラペラしていた。 一旦、自分の中に入れて、消化し、整理してから出した内容ではないことは明らかだ。 しかし、それが深かろうが浅かろうが、彼女はその場所でそのように歴史を理解し、それを見てそのように感じたのだろう、という、妙な小細工のない正直で開けっ広げな感じだけは良く伝わってくる書き方であったし、これまでに聞きかじった言葉の中から最も近いようなのを借りてきて簡単に言葉にしてしまっているだけであって、(面倒なことはあまりしないという、そういう性格なのだろうと思う。)彼女が見ているアングルには、相当面白いものがあると思った。 偉そうなことを言わせてもらえるなら、いわゆる「荒削りだけど」という段階なのではないかと思う。 どうも頭にこびりついて離れない、著者の持論(だったもの)がある。 「食は殺生だから感謝して食べるのだとは教えられていたけれど、基本的には人間のために全てが与えられていると思っていたから、なんでも食べていいものだと思っていた」というものである。 インド旅行の大きな目的は、ヨガをすることにあるとのことで、当然のことながら仏教についてもふれることになるから、殺生の問題が時々話題に上る。 そのたびに、彼女は、そのバランスについてあれこれ考えるのだけれど、考えるにあたってのスタート地点が、「人間のために全てが与えられていると思っていた」というところにあるようだった。 かなり衝撃的なモノの見方だけれど、考えてみれば、言葉として、或いは意識として認識していないだけであって、多くの人は、そして私自身も、そんな風に考えているのかもしれないとも思う。 私には、殺生、というより食生活について、仏教徒ともベジタリアンとも著者とも違う持論を持っているけれど、そこに到達するまでにどのような経緯や変化があったとか、はるか昔には自分がどのように感じていたのかということは忘れがちだ。 持論というのは、日頃の考えや経験の積み重ねにより、ある日ふと、「こういうことなんじゃないか!」とひらめいたりするものだったりするけれど、著者のように、元の部分がしっかりと残っているというのは面白いし、それを隠さずに見せてくれるところ、考えている経緯を見せてくれるところもすばらしいと思う。 「隠さずに見せる」というのは、この本の大きな魅力になっている。 「美しい若い女優が」「一人で」「インドを」「旅する」ということが、本人の意思とは離れたところで本の副題(イメージ)になってしまっていることは、残念なことだが事実だと思う。 実際には、彼女は確固たる意思のもとで、美しくて清潔なホテルに泊まり、そのホテルのレストランで食事をし、車をチャーターして旅を続けており、副題とのギャップに、失望する読者は多いのではないかと思う。 しかし、彼女は、前述の通りに、「確固たる意思のもとで」そのような旅をしているのであり、それを「隠さずに見せて」いる。 そこには、注目を集めるために自分を曲げているようなところが全くないし、そんなことに気付いてさえいないように見える。 そして、相変わらず、彼女自身のアングルによってさまざまなモノを眺めている。 その結果、「美しくて清潔なホテルに泊まり、そのホテルのレストランで食事をし、車をチャーターして旅を続けて」いるという事実は、「美しい若い女優が一人でインドへ旅する」イメージの妨げに全くなっていない。 とは言うものの、正直に言えば、個人的には、もう少し雑多な感じの旅が好きだ。 街中の食堂でこれまでに見たこともないようなものを食べたいし、列車やバスなど公共の交通手段をどんどん使いたい。 それでも、彼女と旅をするのは楽しいのではないかと思った。 彼女の横に立って、彼女が眺めているモノをいっしょに眺めてみたいと思った。 私は彼女が注文する清潔な食事をおいしく食べるだろうし、彼女は私が眺めたモノも見たがるように思った。 だから、著者とふらふらと旅している気分になる楽しい本だったのだろう。 それは、旅行記として、立派に書けている、ということだと思う。
by bp1219
| 2008-05-17 00:10
| Books
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